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ユリイカ




死の恐怖。心の傷。言葉の再生。
死を間近に感じた人たちのトラウマ、そこからの再生を、きめ細かな感性で描いている映画です。
この感情描写がメチャクチャ丁寧で、それでいて語らせすぎていません。
なんせ、主役級の2人が心に傷を負った影響で言葉を失ってますから。
言葉を使わずに心情描写するという、難しいことをしっかりとしでかしてくれています。
この難しい役をこなした(宮崎兄妹)にも拍手です。
特に妹の宮崎あおいさんの演技は、当時15歳という若さで飛びぬけた才能を披露してくれています。
映画は、ほぼ全編通してセピア色なんですが、その映像に色がつくシーンは、しっかりと感動してしまいました。
さまざまな才能が、うまく融合した映画です。
ただし、やたらと長い。
本編3時間37分…。

ストーリー
九州で起きたバス・ジャック事件で、辛くも生き延びたバス運転手・沢井と、乗客の直樹、梢の兄妹は、2年後に偶然再会したのを機に共同生活を始めるようになる。そこに兄妹の様子を見に来た従兄の秋彦が加わり、疑似家族の様相を呈してきた4人は、やがて再びバスに乗って再生の旅に出た…。


冒頭のバスジャックのシーンから、なんだか不思議な繊細さがあります。
初めはセピアな感じが慣れませんが、このバスジャックのシーンあたりには慣れてくると思います。
犯人の方は少ししか登場しないんですが、この犯人の発する「沢井さんは、違う人間になりたいと思ったことはありませんか?」という問いに、強烈なパンチを食らった気がしました。
その後に言う「適当に選んだだけですから。」という台詞も不気味でした。
そんな自分本位で適当な意思によって、小さな子供たちが心に深い傷を負い、その周りの人々を壊してしまうのかと思うと、犯罪というものはやはり、どんなものであれ卑劣なんだと痛感させられました。
当たり前のことを言っているようですが、「ユリイカ」を見る前と見た後では、その感じ方が違うと思います。

その後の、生き残った兄妹を見ると、大人は子供の発するサインに気づいてあげなくてはいけないんだということも、思わせてくれます。
目先の欲に目をくらましやすい大人たちは、子供の持つ繊細な心を忘れ去ってしまっているんですね。
でも、そのために子供が育ててしまう闇は、あまりに暗く、あまりに深いです。
そのサインを感じてあげるのも、傷の再生を手伝ってあげられるのも、やはり大人の責任であると思わされました。
本当に数多くの感情を引き出してくれる映画です。
どんなに深い闇も、必ず癒せるチャンスはあるんだと思わせてくれた映画でした。

監督・脚本:青山 真治(あおやま しんじ)
キャスト
役所 広司(やくしょ こうじ)
宮崎 あおい(みやざき あおい)
宮崎 将(みやざき まさる)
国生 さゆり(こくしょう さゆり)
光石 研(みついし けん)
利重 剛(りじゅう ごう)
松重 豊(まつしげ ゆたか
尾野 真千子(おの まちこ)
本多 哲郎(ほんだ てつろう)(うたいびとはね)

第53回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞・エキュメニック賞、ベルギー王立フィルムアーカイブ・グランプリ受賞。

役所広司さんの演技はもちろん素晴らしいですし、ベテランとしての風格も漂っています。
しかし、誰よりも「ユリイカ」で称賛されるべきは宮崎あおいさんでしょう。
セリフの助けを借りずに、素晴らしい繊細な演技をしています。
宮崎あおいさんの演技を見るだけでも、大きな価値のある映画です。

後に監督の青山真治さんによって小説化されています。
こちらの小説は、第14回三島由紀夫賞を受賞しました。
映画監督としてだけではなく、小説家としても繊細な才能を発揮してくれています。
中身は映画とほとんど変わりません。
ただ、セリフや映像では語られなかった、登場人物たちの心情も丁寧に書かれていました。
さらに、映画の「その後」が書かれています。
しかも小説の最初から。
大した内容ではありませんが、映画を見て感動した方々には嬉しいサービスだと思います。
まあ、オレはこの小説を先に読んだんですけどね。
映画を先に見ても、小説を先に読んでも、同じストーリーなんですが、どちらも楽しめると思います。
ぜひとも両方見てみてください。

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